資料

満蒙問題善後処理要綱

みすず書房「現代史資料(7) 満洲事変」P.361
1932年1月27日、関東軍

弐拾部の内第弐〇号

昭和七年一月二十七日

満蒙問題善後処理要綱

(本件は執務上の参考として配布するものにして配布者以外発表を禁ず)
 過般来幕僚間軍の方針不明なるを云々するものありて参謀長は之を防止する為片倉参謀に命じ之を起案配布せしめたり

満蒙問題善後処理要綱

方針

 満蒙は軍威力の支持を以て在住諸民を包括する新独立国家を樹立せしめ国防及之に附帯する鉄道の実権を掌握し満蒙に於ける我帝国の政治、経済等に関する永遠的存立の性能を顕現し得る如き状勢に馴致するを根本方針とす

要綱

一、速に奉天、吉林、黒龍江三省主脳者を以て最初政務委員会を組織せしめ新国家樹立に関する研究準備に任ぜしむ
 新国家は復辟の色彩を避け溥儀を主脳とする表面立憲共和的国家とするも内面は我帝国の政治的威力を嵌入せる中央独裁主義とし地方行政は特異の自治機構を助長する如くす
 之が為奉天省は我軍協力の下に剿匪を行ひ速に治安を恢復し且地方自治の刷新を図り吉林省は煕洽を支持して北伐を完成し作相系の一掃を図り黒龍江省は馬占山を監視しつつ之に依り民心の安定を策す
 蒙古は将来特定の蒙古地域を形成し政教両途より収攬を図り且成るべく漢人種の刺激を少くする如く漸進的態度を以て指導し熱河省は政治的解決に依り自ら求めて合流し来る如く先ず湯玉麟を支持す
 溥儀に対しては将来頭首としての理解を与へ要すれば側近の姦侫を艾除す

二、満蒙治安の維持に関しては先づ以て奉天省に於ては帝国軍主として負担し吉林、黒龍江省は現存支那軍に依りて行ふ
 将来は警察的軍隊竝地方警察力(公安隊)を以て行ふを本旨とす

三、満蒙の国防は対蘇作戦を主眼とし帝国軍に於て負担し三、四個師団を常駐し得る如くし国防費は法を設けて新国家をして負担せしむ
 新国家には国防軍設定を許さず之が為逐次現在軍の裁兵改編を断行す
 国防上必要なる鉄道は之を帝国に於て管理するものとす

四、満洲に於ける支那側現諸鉄道は先づ以て満鉄会社をして委任経営を為さしむ
 将来の経営要領に関しては別に定むるも取敢へず敷設すべき鉄道左の如し

吉会線 長大線
拉法站―五常―哈市線

 東支鉄道に対しては新線敷設に依る牽制策竝新国家を通ずる営業権獲得に依る枯渇政策に依り自滅に誘き之を回収するを主眼とす

五、満蒙に於ける帝国政策の実行は軍司令部中心となり新国家成立後は右と新に新政府内に創建せらるべき参議府との連関に依り遂行するを本旨とす
 北満方面の経略の促進に関しては北満特務機関の積極的活動を要求す北支方面に対しては満蒙政権に対し動揺を与ふることなき親日政権を樹立する如く天津軍に協力すべきも差当り満蒙の特異性と混同せられざるの注意を払ひ軍として積極的施策を行はず
 対蘇関係は彼が挑戦せざる限り刺激を与へざる如くするも其の陰謀は絶対に阻止し在満赤化を防遏す

六、満蒙に於ける経済的発展は差当り軍特務部に於て連繋指導し新国家成立後は其の内部の嵌入機関に依りて行ふを本則とす
 (之が為産業会社の設立の如き準備を整ふ)
 特に党利党略に悪用せられ或は利権屋の策動、一部資本家の壟断に委せざる如く努むるも合法的資本の投入企業の作興を図り資源の開発原料の供給のみならず工業(特に重工業)の助長市場の開拓を行ふ如くし本邦産業革命に迄推進するの決意を固む資金資本の調達蒐集に関しては特に内地方面との連絡を密ならしむ
 門戸開放、機会均等の主義を標榜するも原則に於て日本及日本人の利益を図るを第一義とす

七、満蒙問題の解決は全日本国民の挙国一致の力特に犠牲者の奉仕の結果なることを高調し社会政策に遺憾なからしむる如く努力す

八、新満蒙の建設は在住民特に支蒙人の声にして其の計画なり且又歴史的必然の帰結なりとの趣旨を宣伝すると共に他方満蒙は日本に依存するに非ずんば統治困難なるも日本は国際正義に鑑み一歩を譲りたるものなりとの趣意を鼓吹す