資料

Session22 抜粋文字起し 731部隊―ハバロフスク裁判等の資料について

2020年02月12日放送分 TBSラジオ「Session22」より抜粋文字起し

出演

荻上チキ

南部広美

常石敬一(神奈川大学名誉教授 科学史・生物化学兵器)

太田昌克(共同通信編集委員)

19:41 荻上

 今回のようにその731部隊を過去の史料から検証しようということになる場合は、ソ連の裁判資料というものを1つ大きな参考にする…ハバロフスク裁判公判資料というものなわけですが、これ、ソ連側はこういった731部隊の所業と言うか行為等を、問題視して実際に裁判を行った、ということになる訳ですか。

20:03 常石

 はい、そうです。で、まぁあの僕、調べ始めた頃、この裁判記録ってのは公判資料って言うんですけど、分厚いもんでね、これ、ロシア語も勿論あるし中国語もあるし英語もある。みんなバラ撒いていたんだけど、「本当かなぁ」って胡散臭く思っていたんですよ。だけど丁度あの、えっと、雪解けの頃、1989年から数年間に渡ってモスクワにずっと行って…あのTBSの支局がサポートしてくれたんでね。これのバックデータって言うか、これを作る為にどんだけの尋問をやっているのかっていうと、これの何十倍って物凄いデータがある訳ですよ。それで、ロシア語が読めないんで日本語の分だけでも読んで、やったら何か、物凄い、なんつったら良いのかな、ドぎつい実験やなんか色々あるんだけど、そういうの全部カットして、本当に複数の証言で一致する所だけをこれがまとめているんですね。ただまぁ内容的にはね、あの例えばあの、ソ連人だからしょうがないんだよね、ヨシムラとニシムラを間違えてね、それとか数字で130っていう所を300にするとかね、そういう所があるんでこの何て言うか信憑性が無いなと思ったんだけど、元の資料を見て、「ああ、こんだけのキチンとした事をやっていたんだ」ってのは物凄いビックリしましたね。そのときに一部の資料ってのは僕あの、ロシア語も持って来ましたけれども、やっぱりそれ以降これはあのもう少し丁寧に見た方が良いなというふうに思っていました。

21:31 荻上

 はい。批判的検証が、まぁかなり必要であることは確かではあるが、しかしながらそこには多くの証言があり、そしてそこの証言等で交わされている言葉の中には研究の為に非常に貴重なものも多いと。

21:43 常石

 で、しかもその証言は誰か1人のものではなくて、少なくとも2人の人の証言がオーバーラップするものばっかりを採用しています。

21:50 荻上

 なるほど。こういった史料等を合わせて、今は研究ができる、太田さんが本を書くときも、そうした史料等に当たられていると…

21:57 太田

 そうです、あの、私はね、寧ろアメリカとか日本の史料をあたったんですけども、これアメリカには実は人体実験のデータがそのまま、731部隊からアメリカに引き渡されているんですよね。で例えば今アメリカのワシントンにある議会図書館――これもあの常石先生と15年程前に一緒にね、取材調査に行ったんですけども――そこには実は、何て言うんですかね、人間の上半身だけが描かれた、まぁ裸の絵が描いてある。そこに例えばペスト菌や炭疽菌がどのように付着して、それがどのように広がっていったかって言うのをカラフルなね、本当にこう色でこう示しているような、そういうあの、人体実験データが、実はアメリカ軍の資料として残っているんですね。例えばこの、ペスト菌に関するQ報告、炭疽菌のA報告、鼻疽菌のG報告――っていうふうな形で、中国東北部のノウアンや新京(今の長春ですけども)、ここでペスト感染して死亡した住民57人の解剖結果なんかをQ報告はまとめているんです。そこにちゃんと個人の、どういうふうにこの細菌が付着してどう広がっていって死んでいったかっていう、そういう病理解剖のデータをアメリカがちゃんとコレ保存して、米議会図書館に行ったらそれ閲覧できるんですよ。これだから、ロシアの記録って言ったら何かちょっと「うわっ、大丈夫か」って思ったりしてそれ先生がバックチェックされて、で尚且アメリカもそういったデータを、ちゃんと日本軍から貰って来てそれを公開しているっていう。これは事実として非常に私は重いと思うんですよね。